さかさまに落ちていく
デンライナーの走行するうるさい音にも慣れてきた。それと、このデンライナーの中で言い争う騒がしい声にも、慣れてきた。相変わらずくだらないこと、つまらないことで良い争いをしているものだから、私は鬱陶しいなと思いながらナオミちゃんからコーヒーを受け取った。だけどそんなナオミちゃんはこの喧騒をむしろ面白い、楽しい、と思っているらしく、私はその様子を見て大きな溜息をついた。


「どうしたんや、

「ああ、キンちゃん。なんかこのうるささにも慣れてきちゃってなんか癪だなーって、キンちゃん!」


キンちゃんはぐうと大きないびきをかいて寝ている。私の様子を気にするくせに、キンちゃんはいつも直ぐに寝てしまう。私の話をまともに聞いてくれたことなんてないんじゃないだろうか。でもキンちゃんはいつでも私に味方してくれたり、守ってくれたりする凄く心強い仲間。
キンちゃんの堂々たる寝姿を私はにやっとしながら見ると、うしろから思いっきり頭をぶん殴られた。痛いじゃないかと後ろを振り向き様に私を殴った奴の頬を張ると、それはやっぱり、モモだった。モモは頬を押さえながら机の上に伸した。


「いてえじゃねえか!」

「痛いのはこっちさ!」

「だからって手の甲で張り手することねえじゃねえか!」

「うっさいな!モモが悪いんだろ!」

「まあまあお二人とも…。先輩が悪いと僕は思いますけどね」

「てんめえー…!」


私の後ろで再び乱闘が始まった。私はまさか留める気なんて無いし、やりたければやってろ、な感じだ。キンちゃんはまだ腕を組んだままいびきをかいて眠りこけているし、今日一回も話してないリュウちゃんは机に体を乗せたままじっとこっちを見ていた。私は慌ててキンちゃんを起こさないように(まあ何しても起きないだけど)して席を離れてリュウちゃんの方に向かった。
リュウちゃんは私が来ると、思ったよりもはしゃいで私の首に手を掛けた。


「リュウちゃんどうしたの?」

「エヘヘ、が気付くかと思ってさ」

「ふーん、それだけ?」

が僕以外の人と喋ってるから」

「ごめんごめん」


リュウちゃんは私の膝の上に頭を乗せると、まるで猫のように甘え始める。今に始まったことじゃなくて、リュウちゃんが現れてから、ずっとだ。周りのまだ戦っている人たちには気付かれていないようだし、もっともキンちゃんもまだ寝ている。今はハナさんも良太郎くんもいないし、私とリュウちゃんを邪魔する人なんて誰も居ない。
リュウちゃんが私に対してどんな感情を持っているのかわからないけれど、私は少なくともリュウちゃんが好きだった。この好きが弟として好きなのか、はたまた恋愛対象として好きなのか、私はまだ分からない。こうしてリュウちゃんを膝に乗せていることで、満足だと思っているのは確か。


「リュウちゃん、リュウちゃんは愛理さんと私、どっちの方が好き?」

「そりゃお姉ちゃんだよ」

「ふーん、そっか」


少し、裏切られた気分になった。リュウちゃんは私の膝からぱっと頭を上げて、私の顔を見る。私は今どんな顔をしているんだろう。慌ててリュウちゃんに今思っていることがばれないように笑んでみる。


「でもね、僕のことお姉ちゃんとは違う感情で好きだよ」

「え?」

「だから、僕が好きなんだけど、チューしていいよね?…答えは聞いてないけど」


人間とは感覚は違うけど、人間と同じ、優しいチューをほっぺにされた。

したあと、リュウちゃんは照れくさそうに笑っていた。だけど、私はまだこの気持ちが恋愛感情なのか分からない。でも、確実にリュウちゃんにチューをされたとき、ドキドキした。イマジンを好きになってしまうなんて、許されないこと。もしハナさんが知ったら私とハナさんはどうなってしまうのだろう。

でも、リュウちゃんが少なくとも私を好きで、私はそれに応えたいと思っている。照れくさそうに笑うリュウちゃんを、私は少し不安げな目で見ていた。






さかさまに落ちていく






(そう貴方と恋に、まっさかさまに。)