温かい体温と、静かな寝息で目を開ければ、私に腕を預けたまま眠る彼がいた。
胸をゆっくり上下させながら、寝息はそのリズムをくずす様子を見せなくて。
当分は起きないだろうから、と少しだけ擦り寄れば。
頭の下、彼の腕から聞こえてくる鼓動と、温かな体温が胸を満たした。
「キンちゃん…おはよ。」
朝の挨拶と同時に。
ふに。
柔らかい頬を、指でつつく。
結構大きな声なのに。結構強く触れたのに。
それでも開かない瞳に、笑みを溢していれば。
余裕のある私に夢の中の彼も反撃を試みたのか、ぎゅっ、と引き寄せられて。
適度に保っていたはずの距離は、ゼロへ。
突然近付いた距離が恥ずかしい。
だけど、胸を埋めるのは懐かしいときめき。
彼の側でしか感じられない安心感に満たされて、身動きが取れない。
「私……幸せだね。」
吐息が掛かる程近くで、大好きな人の体温を感じて。
その温かい腕に抱かれて、朝を迎えた。
あぁ!なんて私は幸せなんだろう!
道のど真ん中で声を張り上げて、通りすがりの警察官に、
『ちょっと、君。来なさい!』って何もしてないのに怒られたっていいから。
ねぇ、叫びたい。誰かが怪しむくらい大きな声で、今。幸せだ、って。
「っ………」
叫びたいよ。
幸せだよ。
それなのに。
幸せなのに。
叫びたいくらい、幸せな、はずなのに。
「どうして……?」
縋り付く様に伸ばした手が震えた。
一人にしないで、と、心が叫んでいた。
言い聞かせるようにして口にした『幸せ』という言葉が、逆に胸を締め付けて。
目を閉じて安らかに寝息を立てる貴方が決して気付かないくらい静かに。
とても静かに、涙が零れた。
―――傷つくのは、なんだよ!?
優しい優しい、あのこの言葉。
私を傷つけたくなくて、正直に教えてくれた。彼の秘密。
でももう遅かった。何もかも。突き放せば、私が壊れてしまう。
いつか、目に見えぬ未来、砂と消える人よ。
今でない、いつか必ず。私のもとを、去る人よ。
例えいつかこの温かな時間も、熱も。
全て何事もなかったかのように、世界に忘れ去られてしまうのだとしても。
貴方と歩む道を選んだのは、他でもない、この私。
どうか願いが叶うなら、優しいひと。この涙には、気付かないで。
やがて幻と共に消えるとしても
「………なんで…泣いとるんや…」
「おはよう、キンちゃん。」
「あ、あぁ。おはようさん。それより、なんで…」
「何でもないよ。」
「………」
「…何でも、ないの。」
(貴方なしじゃ、呼吸もまともにできないのに。(それはつまり、死、ってこと。))
lightning 様に捧ぐ。 by 聖朱音