君がいつも、誰を見ているのか、僕は知っている。

とても幸せそうに微笑んで、彼を見ている。

その相手が、羨ましくて、仕方がない。

君は僕のそんな気持ちも知らずに、今日も幸せそうに微笑む…









『笑う君はきれいだった、悲しかった』









「唐辛子がダメだとはねぇ…」

「そうか…ちゃんは見たことなかったんだよね」

「うん。へ〜唐辛子か〜…」



唐辛子を盛られ、爆睡しているモモタロスをテーブル越しに見て、なぜか関心しながら頷いた。

後ろのカウンター席に座るウラタロスは、その姿を苦笑して見つめた。

が来るから、ちょっと意地悪をしたつもりなのに、逆に惹きつけてしまう要因になってしまっている。

面白くないな…と思いながら、ウラタロスは珍味なコーヒーを一口含んだ。

はふらふらと足を遊ばせ、数秒見つめた後、飽きたのか何なのか、ウラタロスの隣に腰を降ろした。



「どうしたの?」

「寝てるから、起きるまで待ってる」

「そう…あ、ちゃんは、コーヒー牛乳でよかったよね?」

「うん!ありがとう!!」



事前に頼んでいたコーヒー牛乳を差し出せば、満面の笑みを浮かべ、ウラタロスを見上げる。

ウラタロスも頬を緩ませ、カップを置いた。



「ウラ君は気が利くね〜」

ちゃんだから、かな?」

「またまた〜」



本当の話だけれど、はこれっぽっちも本気にしていないだろう。

それも全て理解している上で、今日も繰り返す。

全てはモモタロスに傾かれているとわかっていても、繰り返す。


彼女の笑顔は、好きだから。

そんなの綺麗に固めた言い訳だって、笑われるかな?



「………本当に、先輩が好きなんだね」

「は?」



ウラタロスを見上げて固まる彼女に微笑めば、瞬時に顔が赤くなっていく。

上手く言葉にできないのか、口がぱくぱくと動いている。


あぁ、可愛い…一つ一つの仕草が、僕の中をかき乱す。

全て奪ってしまえたらいいのに。

力ずくで奪ってしまえたら、どれだけ楽なのか。

でも、そんな事をしても、君は笑ってはくれないだろう。

もし笑ってくれたとしても、感情も何も篭っていない笑顔。



「そ、そんな恥ずかしい事言わないでよ!!」

「え〜?何で?今の顔、すっごく可愛かったのに…」



真っ赤な頬に手を滑らせ、顔を近づける。


あ、キス、できるかも…



「ウラ、君…!!」

「……ごめん、嘘だよ。う〜そ」



寸でのところで行為を止めると、は大きな瞳を何度か瞬かせ、力の入った肩を落とした。



「ま、マジで止めて…心臓に悪いから…」



は〜、と、安心しきったように息を吐いて、赤く火照った頬を両手で包んだ。

モモタロスは未だに夢の中で、いびきが聞こえる。


呑気だよね、このヒト。

そんなんじゃ、僕が奪っちゃうよ?



「うん、止める。多分……ね?」

「ウラ君!!!!」



君の笑顔が好きだから。

美しくて、好きだから。

でも、どうしようもなく、悲しくなる僕がいる。

ねえ、それでも、君の笑顔が大好きです…



E N D