最近、わたしの人生って案外もう少しで終わるんじゃなかろうか。なんて考えるようになった。今まで平凡で、というか平凡すぎたと言ってもいいぐらいの生活を送ってきたわたしの前に非凡なことが現れすぎている。

例えば、時をかける電車とか。
例えば、未来からきた超美人なお姉さんとか。
例えば、


ちゃ〜ん?どうしたの、難しい顔して」


…同じく未来からきた、無駄にナンパな亀とか。


「そろそろわたしの人生が終わりを迎えようとしてるんじゃないかなあとか」
「え?!なに、ちゃん結婚しちゃうの!?」
「どうしてそうなる」
「女の子の人生のゴールといえば結婚でしょ」


「えー、でもなんで僕じゃないかなあ…」と残念そうな顔を作って、わざとらしく肩まで竦めて見せやがった、この亀。これはどう考えてもからかわれてるに違いない。ていうか、からかわれてる。


「ていうか女がみんな結婚願望があると思ったら大間違いだぞ、このくそ亀」
「やだなあ、ちゃん。言葉遣い悪いよ?」
「そういうあんたは手癖が悪いっての!」


言いながら、何故かさり気なく隣の席に座り、これまた何故かさり気なく腰に回されそうになった手を叩き落とした。

べしり。

いかにも、ダメージがなさそうな音。けれども、亀はまたまた残念そうな顔を作り、わざとらしく肩を竦めて手を引っ込めた。無駄なところで紳士なのである、この亀は。
多分、これが作戦なんだろうけど、生憎わたしは亀なんかに釣られないからな!寧ろ釣り上げて亀鍋にして良太郎と一緒に鍋パーティするんだから!

…こんなの食べたらお腹壊しそうだけど。


「あんたはほんと、色んな意味で食えない奴だよねえ…」
「えーと、ちゃん?なにかんがえてるのかな?」
「別に。なにも」


言いながら、にこにこと気味悪く笑う亀。寧ろお前がなに考えてるんだよ、と聞きたくなったけど、それよりも奴と距離をとるほうが優先だ。

が、気付いた。気付いてしまった。通路側の席に亀がいる、この事実に!(ちょっと火サス風に言ってみた)

結果、窓のほうに後退りするしかなく。ずずい、とさり気なくそれとなく距離をあけてみた。ここで距離を詰めてくるのがいつもの話(そして近寄ってくる亀を蹴るのもいつもの話)なのだけれど、亀は特段気にした様子もなく、そのまま席を立ってしまった。
あれ?あれあれ?なんだろう、変なの。
(あれ?あれあれ?なんだかわたしの心も変な感じ?)

妙な感じの正体に気付く前に、亀がまた戻ってきた。コーヒーをふたつ、その手に持って。


「はい、ちゃん」
「ああ、どうも」


手渡されたコーヒーは、あのゲテモノコーヒーではなく、普通のコーヒーで。混乱しつつ、ご丁寧にミルクと砂糖まで付けられていたことに気付いて更に混乱。なに考えてるんだろ。ちらりと亀を見上げてみたけれど、ただにこりと笑って隣に腰掛けただけだった。ただ、距離はきっちり埋められているあたり、亀はいつも通りのすけべ亀のままらしい。
(あれ、じゃあおかしかったのはわたしの方?)


「そういえば話戻るけど、ちゃん、なんで結婚したくないの?」
「別に理由なんかないけど。強いて言うなら相手がいなそうっていうか」
「いるじゃない、ここに」
「あ、そっか。いき遅れたら良太郎と結婚すればいいじゃん」
「まあ都合上良太郎の体借りなきゃ無理だから戸籍上はそうなるんだろうけど、いいよ別に」


「僕、そういうの気にしないから」とご丁寧に語尾にハートマークをつけて言いやがった。なんて奴!こいつらが来てから良太郎は本当苦労しっぱなしね!あ、来る前から十分苦労してたけど。

しかしそういえばそうだ。もし仮に良太郎と結婚することになったとして、その場合、わたしたちの結婚生活には常にこいつらの影がちらつくのか。うわ…さいあくじゃん。つまりわたしは良太郎五変化に毎日悩まされるわけだよ。
来る日も来る日も、毎日。年取って婆さんになっても。

ひえええ考えただけで末恐ろしいことかな!

わたしの人生設計では、年取ったら夫婦で縁側で茶飲んでまったりする、ていうこれまた平凡すぎるわたしの人生にお似合いな計画がたてられてるんだよ。良太郎と結婚したらこのささやかな計画も全部パーじゃん!いや、良太郎悪くないけど。ていうか勝手に良太郎と結婚する前提にしちゃってるけど。
でも良太郎と結婚しなくても良太郎は年取ってもずっとこいつらに悩まされ続けるわけだよね…か、可哀想すぎる…

ん?そういえばこいつらも年取るのかな。生きてるんだもんね、年取るよね。


モモは老けても喧嘩っ早いのかな。年食ったらおとなしくなんねーかな。良太郎の体もたないよ。

キンちゃんは老けても天然さんなのかな。かわいいな。でも良太郎の体のためにももちょっと学習して。

リュウちゃんは老けても電波っ子なのかな。そうなんだろうな。良太郎の体は年取るんだからあんまり暴れないで欲しいな。


「ねえ、ちゃん。さっきからすごい変な顔して考え込んでるけど、そんなに僕と結婚したくないの?」


亀、は…きっとずっとこの調子。まず良太郎の体使って女の子と遊びに行って。帰ってくるとわたしにものすごく怒られるんだけど、気にしないでわたしにまで軽口聞いてきたりして。それで…それ、で…
(どう、なるんだろう?あいつと…わたし、は)


ちゃ〜ん?ちょっとちょっと、そんなに真剣に悩まなくても大丈夫だよ」


悩んでるわけじゃ…、と言い返そうとして、何も言えなくなった。


ちゃんが結婚しようってときには、僕もうここにいないんだから」


そう、だ。すごく、すごくすごく大事なことを忘れていた。
平凡なわたしの人生で、非凡な存在だったはずのこいつらが。こいつが。いつの間にか当たり前になりすぎていて、すっかり、きれいさっぱりと、忘れていた。


未来から来たというのだから、いつかは帰るのだ。未来に。また。


年をとる?そんな次元じゃあない。生きてる時間が、世界が違うのだ。そんなことは、この亀やモモたちの姿からしてわかりきっていたことなのに。どうして、気付けなかったんだろう。
(きっと、気付きたくなかったのかもしれない、わたしが)


「…ウラタロス」
「珍しいね、ちゃんが僕の名前ちゃんと呼んでくれるの。もっかい呼んで?」
「ウラタロス、」
「うわ、これほんと珍しい!ちゃんどうしちゃったの?」
「ウラ、タロス…」
「…ちゃん?」


ああ、見っとも無く泣いてしまいそうだ。どうして気付いてしまったのだろう。気付いてしまえばもうすべて、
(抑えきれない、じゃないの)










「わたし、たった今あんたのことが好きなことに気付いたよ」










あぁ、いやだ、世界がれていく
さようなら、平凡すぎた日々。(ようこそ、非凡すぎる日々よ!)



















(20070505:素敵な企画に参加できて幸せですvお粗末様でした!)